コラム
米サノフィ社と米バイオ医薬品ベンチャーのマンカインド社は、2015年2月3日、吸入インスリン製剤のAfrezzaが処方薬として全米の薬局で購入可能になったと発表しました。
Afrezzaは小型の吸入器を用いて、カートリッジ内のインスリン粉末を口から吸入する。特殊なマイクロパーティクルに封入されたインスリンは肺からすぐに吸収され、血中に移行する。血中濃度のピークは吸入から12~15分と、超速効型インスリンの皮下注射より早い。
適応は成人の糖尿病(Ⅰ型の場合は持効型インスリンとの併用が必須)で、使われているインスリンはヒト型インスリン。作用時間が早いので、食事の開始時に吸入する。つまり食後の追加インスリン分泌を補充する目的で使うことを想定していて、持効型インスリンの代替とはならない。
単回使用のカートリッジは、インスリン4単位用と8単位用の2種類があり、それより投与量が多い場合は、2種類のカートリッジを組み合わせて複数回吸入する。
インスリン粉末を吸入することから、慢性呼吸器疾患の患者では気管支攣縮を誘発する可能性があるとして、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性の呼吸器疾患がある患者には禁忌とされた。投与開始時、全例に呼吸器検査の実施と6か月毎の再検査が必要としている。
さて、日本ではいつ頃発売されるのでしょうか?
2015年2月15日 池田内科 院長 池田 肇
2015-02-15 17:26:30
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胃もたれや胃痛などの訴えで病院に行くと、よく「慢性胃炎が原因」って言われますが、一体、何を指すのでしょうか?
実は消化器専門医の間では、最近、慢性胃炎を大きく2つに分類しています。ひとつはピロリ感染胃炎、他方は機能性ディスペプシア(以後FDと略)という病気です。
2014年4月に日本消化器病学会が「機能性ディスペプシアFDの診療ガイドライン」を発行しました。FDとは、胃カメラをしても癌や潰瘍、ピロリ感染胃炎がないにもかかわらず、胃もたれや胃痛が見られる場合の新しい病名です。簡単に言うと胃カメラで異常ないと言われたけど、食後の胃もたれや胃痛、早期満腹感、上腹部膨満感などがある場合を指します。
慢性胃炎そのものの定義は、「慢性的な胃粘膜の組織学的な炎症」とされ、その原因の9割がピロリ菌感染と考えられています。
では、治療はどうすればいいのでしょうか。
ピロリ感染胃炎の方は、まず除菌治療から始めるのが一般的ですが、除菌に成功しても症状が消失する率は約20%と言われていて、当院でも約1/3位と考えています。除菌後も症状が消失しない方は、FDと同様の治療薬を考えます。つまり、痛みのある方には胃酸分泌抑制薬を、その他の胃もたれや早期満腹感、上腹部膨満感には消化管運動調節剤や消化剤を処方します。当院では漢方薬を併用することが多いですが、最近、適応病名がFDだけの薬が発売されていますので、上記の薬で効果がない場合、試されてはどうでしょうか。
2014-07-14 20:07:56
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脂肪肝は人間ドッグなどでよく診断される疾患ですが、我が国では、飽食、運動不足による肥満人口の増加を受けて、成人の10~40%がかかる国民病となっています。痛みも無いし、癌と言われたわけではないので、ついついそのままになってしまいがちですが、では放っておいたらどうなるのでしょうか?
脂肪肝は、その原因からアルコール性と非アルコール性に分類されます。アルコール性は当然、肝硬変に進行しますし、肝癌にもなります。非アルコール性の中には少量の飲酒者も含みますが、単純性脂肪肝(病的意義は少ない)とNASH・通称ナッシュ(肝硬変・肝癌へと進行するタイプ)に分類されます。
最近、問題となっているのはこのNASHで、日本語では非アルコール性脂肪肝炎と言いますが、急増しています。脂肪肝は、エコーやCT,MRIなどの画像検査で診断しますが、NASHは血液検査や先程の画像検査では診断できず、肝生検(肝臓に直接針を刺して、組織を採る検査)が必要なので診断は難しいですが、非アルコール性脂肪肝と診断された方の中で10~20%がNASHへと進行するようです。特に肝機能が悪い人や、高齢者・高度肥満者・糖尿病を伴う方は要注意です。放っておいてはいけません。
治療としては、まず食事療法や運動療法によって脂肪肝を改善すること、そして合併することの多い糖尿病や脂質異常症、肝機能障害の薬物治療も同時に行うことです。
院長 池田 肇
2013-11-29 21:50:00
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風疹が全国的な流行をみせています。予防接種の普及で多くの国では「もうなくなった感染症」なのに、ワクチン後進国の日本ではいまだに流行がみられているのが現実です。私の外来でも最近、大人の風疹を数人(全員男性)診断しました。
風疹は、発熱、皮疹、リンパ節腫脹、関節痛が見られますが、麻疹と比べると比較的軽症のことが多い。しかしながら風疹を甘く見てはいけません。妊婦が感染すると、胎児に影響を及ぼす可能性があるからです。先天性風疹症候群といって、白内障、緑内障、脳髄膜炎、難聴、先天性心疾患などを起こす。妊婦が妊娠11週までに感染すると先天奇形を起こす可能性は90%と言われています。妊娠初期がもっとも危険なのです。
風疹はワクチンで予防可能です。ただ、生ワクチンであることから、妊婦にワクチンを打つことはできません。つまり、妊娠する前にワクチンを打つ、そしてワクチン接種後28日間は妊娠を回避することが大切です。
風疹ワクチンは、現在では1歳時と小学校入学前の2回接種が決められていますが、ワクチン後進国の日本では、一時期女性だけが対象になったりした時期もあり、現在、男性を中心に流行しています。
風疹の全国的な流行を受けて、各自治体でワクチン接種への助成が広がりをみせています。大阪府内でも一部助成ですが、少しづつ広がっています。ただ、早く全国一律の助成にしないと、すぐにワクチンを打ちたい方でも、もう少し待ったら助成金が出ると思ってしまいがちで、H25年5月16日現在、当院のある岸和田市は助成金なし、お隣の泉大津市や貝塚市は助成金ありとなると・・・。本当に困りますね!
院長 池田 肇
2013-05-17 21:54:00
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日本における結核患者は、今でも年間2万3000人(2010年)が新たに発病し、世界の中でも、中(くらいの)蔓延状態にある国と言われています。その中でも、大阪府は罹患率トップで、最近も、若年層を中心とした集団感染がありました。大阪に住んでいる我々としては放置できません。
結核の症状は、微熱や咳が2週間以上続く、急に体重が減った、身体がだるいなどが挙げられますが、これといった特徴的な症状はありません。ですから、まずは疑うことから始まって、医療機関を受診していただくことが大切になります。
結核を発病しているかどうか診断する方法として、痰などから結核菌を検出する方法(塗抹検査、分離培養法、核酸増幅検査法)と、胸部エックス線写真を撮る方法があります。ただ、結核が強く疑われても、痰などがうまく採れないときが少なからずみられます。そのような場合、クオンテイフェロンと言う、新しい血液検査が威力を発揮します。
現在使われているクオンテイフェロンはQFT-3Gで、血液を結核菌特異抗原(ESAT-6,CFP-10,TB7.7)とともに20時間培養し、特異抗原により刺激を受けたTリンパ球により産生されるインターフェロンγ(IFN-γ)という化学物質を測定し、判定する方法です。
以前より結核免疫の有無はツベルクリン反応によって判定されてきました。ただ日本では小児期に打ったBCG接種の影響があり、偽陽性(本当は結核に感染していないにもかかわらずBCGの影響で陽性と判定される)という問題がありましたが、QFT-3Gでは、BCGの影響をうけないので、より確実な結核診断が可能です。
結核患者が出た場合、周囲の接触者が感染しているかどうかが、気になります。保健所では、接触者健診としてこの問題に対処しますが、胸部エックス線写真とこのQFT-3G検査が中心となります。
注意点:クオンテイフェロンQFT-3Gは血液を採るだけの簡便な検査法でありながら、感度は、92.6%、特異度は98.8%とかなり信用度が高い検査法です。ただ、感染から陽性になるまで、約8週間かかると考えられています。また、6歳未満では反応性が低い場合があります。*クオンテイフェロンは、オーストラリアCellestis社製の全血IFN-γ測定キットの登録商標です。
院長 池田 肇
2012-09-29 21:51:00
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最近、ヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)が胃潰瘍、十二指腸潰瘍のみならず、胃癌の原因菌であることが明らかになり、同菌の除菌治療が重要になっています。一方、健康保険で認可された一次(1回目の)除菌療法の除菌成功率は、徐々に低下し、最近では、70%程度と報告されています。
こうした状況のもと、除菌療法の数週間前からLG21乳酸菌入りヨーグルトを摂取することで、除菌の成功率が向上するという研究成果が報告され、注目されています。
LG21乳酸菌は、ヒトの胃酸に耐えて胃に定着しうる乳酸菌とされ、摂取中はピロリ菌の減少が認められています。上記の研究報告では、LG21乳酸菌入りヨーグルト90gを1日2回、4週間ー治療前3週間と除菌治療中の1週間の計4週間ー摂取することで、除菌成功率が、69.3%(通常治療群114例中79例)から82.6%(LG21併用群115例中95例)に向上し、有意に高い除菌率を示したとのことです。
ヨーグルトの商品名の横に、よくプロバイオテイクスって、書いてありますが、これはもともと腸内の有害菌を抑えて腸内環境を良好に維持する生きた微生物を指します。LG21乳酸菌の登場によりプロバイオテイクスの意義は、腸内から胃にも広がったと言えます。
現在、当院では2次除菌の時にだけ、除菌前の2週間と除菌中の1週間、計3週間、
LG21乳酸菌入りヨーグルトを摂取していただいてますが、今後、1次除菌時にも広げようか、検討中です。
院長 池田 肇
2012-05-31 21:56:00
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B型肝炎ウイルス(HBV)を持っているキャリアと呼ばれる人は全世界で3億5000万人と推定され、東南アジアなど、気軽に海外旅行先に選ばれる地域も高い感染率を示しています。
そんな旅先で不慮の事故や急病となり、医療機関にかかるとしたら・・・。
開発途上国では、医療器具の消毒や輸血血液の安全確保が徹底されているとは限らず、医療機関受診が感染リスクとなります。
特に感染者が多い地域としてWHOが指摘するのは、東南アジア、アフリカ、東地中海地域、南西太平洋諸島、アマゾン下流域とカリブ海地域。これらの地域での感染率は、5人に1人以上です。
日本渡航医学会は「海外渡航者のためのワクチンガイドライン2010」の中で、A型肝炎ワクチン、狂犬病ワクチン、黄熱ワクチンなどと並び、B型肝炎ワクチンの接種を勧めています。ただ、注意すべき点として、3回接種しないと効果がないことで、他のワクチンと違い、渡航6ケ月前から始める必要があることです。
院長 池田 肇
2011-11-20 22:42:00
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この度の東北地方太平洋沖地震での原子力災害は大変気になるところです。今後、放射能がどれくらい漏れてしまうのか、本当に心配です。ただ、インターネットなどに流れている、根拠のない情報にはくれぐれも注意して下さい。
放射性ヨウ素が大量に身体の中に入った場合、健康への影響を低減するために(主に甲状腺癌の発生を防ぐ)、内服薬である「安定ヨウ素剤」を医師が処方する場合があります。市販品としてヨウ素を含んだものはたくさんあります。ヨードチンキ、うがい薬(イソジン)、のどスプレー、消毒用せっけん、ルゴール液などです。これらを内服薬である「安定ヨウ素剤」の代わりに飲むのは絶対にやめて下さい。
理由は以下のとおりです。
・うがい薬などの市販品は内服薬ではありません。これにはヨウ素以外の成分が多く含まれ、体に有害な作用を及ぼす可能性のある物質も含まれます。
・たとえ飲んだとしても、ヨウ素含有量が少なく、放射性ヨウ素が甲状腺に集まるのを抑制する効果はありません。
また、わかめ等の海藻にもヨウ素が含まれますが、十分な効果はありません。
「安定ヨウ素剤」は医師が処方するものです。
原子力災害などの緊急時に、指定された避難所などで服用指示があった場合のみ、服用して下さい。
*独立行政法人 放射線医学総合研究所より、抜粋。*
院長 池田 肇
2011-03-23 21:59:00
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2004年、Lancetに画像診断に伴う放射線被ばくは世界中で日本が突出して多く、日本人の癌の発生率を約3%高めているというショッキングな報告がなされました。
CT装置に関していえば、日本全国に8000台以上の装置が存在しており、アメリカやヨーロッパ各国と比べて、その台数ははるかに多く、放射線科専門医数の優に2倍を超えます。全国どこにでもCT装置があるのは便利ですが、過剰な検査を招き、結果として被ばく量は増加します。広島、長崎を抱える日本において、医療被ばくがこれまであまり問題にされなかったこと自体が不思議です。
被ばく線量について
胸部単純X線写真の正面撮影における被ばく線量は0.05~0.1mGyです。これをベースに身体の各部位のCTを撮ったときの線量を見ると、
胸部CTは 約10mGy-単純X線写真の およそ100倍
腹部CTは 約20mGy― 同上(胸部) およそ200倍
頭部CTは 80~150mGy― 同上(胸部) およそ800~1500倍
空気の多い胸部は少ない線量ですみますが、頭蓋骨で囲まれた頭部ではかなりの線量になります。ここで注意しなければいけないことは、造影剤を使った造影CT検査では、一般に1回の検査で単純CT(造影剤なし)と造影CTの2回分の検査をしていることです。
放射線に弱いとされる臓器に、精巣や水晶体があります。精巣が一時的に不妊になる(精子の減少)線量が150mGyですので、腹部CT7~8回分・造影CTだと4回分です。眼の水晶体が混濁する(白内障)線量は500~2000mGyとされていますが、1000mGyとすると、頭部CT10回分程度となります。
おわりに
CTは胸部単純X線写真の100倍以上の被ばく量があり、頭部CTはさらにその10倍も多いことを十分認識すべきです。癌の発生が少し増えることは率の問題ですが、精子の減少や白内障の出現などは確定的なリスクとなります。もちろん、むやみに怖がる必要はありませんが、医師も含めて“医療被ばくには制限がない”などと考えないことです。
*日本医師会雑誌第139巻・第3号/平成22年6月より抜粋*
院長 池田 肇
2010-06-23 22:02:00
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ピロリ菌は、正式にはヘリコバクター・ピロリ(Hp)と言いますが、その診断方法は徐々に変化しています。最近の診断方法について、その利点、欠点を書いてみます。
まず、内視鏡検査を用いる侵襲的方法と、内視鏡検査を必要としない非侵襲的方法に分けて述べていきます。
Ⅰ)侵襲的検査(内視鏡検査が必要で、胃の組織を少し採って調べる)
①迅速ウレアーゼ試験
安価で簡便、すぐに判定可能ですが、結果を保存できない
②鏡検法
顕微鏡で直接見るので、組織も同時に見れますが、特殊染色が必要
③培養法
一般の菌では培養が重要ですが、時間がかかるのと、ピロリ菌では偽陰性率(本当は感染しているが、感染していないとして出ること)が高い
Ⅱ)非侵襲的検査(内視鏡検査は不要)
④抗体測定法
血液や尿で測定できる(簡単)が、除菌後早期の判定に向かない
⑤尿素呼気試験(UBT)
簡単で精度が高いが、試薬が高価である
⑥便中Hp抗原測定法
簡単で精度が高いが、便を採る必要がある
一般に内視鏡検査を用いる方法(①~③)は、胃内の一部の組織を採って調べるため、サンプリングエラーによる偽陰性の問題点があります。(ピロリ菌は胃内全域にいることはまれなためです)。現時点で最も検査精度が高いのが⑤、⑥であると考えられています。
当院では、患者さんの簡便さとコストを考えた上で、ピロリ菌の感染診断には、主に④の抗体測定法を、除菌後の判定には⑥の便中Hp抗原測定法を用いています。(⑤は試薬が高価な上、試薬服用後にベッドでの体位変換などの時間が必要なので、当院では現在用いていません)
院長 池田 肇
2010-03-09 22:04:00
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