2004年、Lancetに画像診断に伴う放射線被ばくは世界中で日本が突出して多く、日本人の癌の発生率を約3%高めているというショッキングな報告がなされました。
CT装置に関していえば、日本全国に8000台以上の装置が存在しており、アメリカやヨーロッパ各国と比べて、その台数ははるかに多く、放射線科専門医数の優に2倍を超えます。全国どこにでもCT装置があるのは便利ですが、過剰な検査を招き、結果として被ばく量は増加します。広島、長崎を抱える日本において、医療被ばくがこれまであまり問題にされなかったこと自体が不思議です。
被ばく線量について
胸部単純X線写真の正面撮影における被ばく線量は0.05~0.1mGyです。これをベースに身体の各部位のCTを撮ったときの線量を見ると、
胸部CTは 約10mGy-単純X線写真の およそ100倍
腹部CTは 約20mGy― 同上(胸部) およそ200倍
頭部CTは 80~150mGy― 同上(胸部) およそ800~1500倍
空気の多い胸部は少ない線量ですみますが、頭蓋骨で囲まれた頭部ではかなりの線量になります。ここで注意しなければいけないことは、造影剤を使った造影CT検査では、一般に1回の検査で単純CT(造影剤なし)と造影CTの2回分の検査をしていることです。
放射線に弱いとされる臓器に、精巣や水晶体があります。精巣が一時的に不妊になる(精子の減少)線量が150mGyですので、腹部CT7~8回分・造影CTだと4回分です。眼の水晶体が混濁する(白内障)線量は500~2000mGyとされていますが、1000mGyとすると、頭部CT10回分程度となります。
おわりに
CTは胸部単純X線写真の100倍以上の被ばく量があり、頭部CTはさらにその10倍も多いことを十分認識すべきです。癌の発生が少し増えることは率の問題ですが、精子の減少や白内障の出現などは確定的なリスクとなります。もちろん、むやみに怖がる必要はありませんが、医師も含めて“医療被ばくには制限がない”などと考えないことです。
*日本医師会雑誌第139巻・第3号/平成22年6月より抜粋*
院長 池田 肇
2010-06-23 22:02:00
コラム